表紙 前文

 

 ?あ ?い 'い ?う 'う ?え 'え ?お 'お                             ?め   ?や  ?ゆ  ?よ       ?わ  ?ゐ  ?ゑ  ?ん  

 

 私が琉球語のどこに魅かれるのか話したい。ここに100人の人がいて同じ風景を見ているとしよう。おそらく間違いなく100人に見えている風景は全く同じである。ところがこれを言葉で表現するとなると100種類の違った表現となる。見えている世界と表現された世界は違うのである。同じように、琉球語で表現された世界と共通語で表現された世界は違うのである。二つの言葉を持つと、同じ世界を二つに表現できるのである。私の場合、英語を含めると、同じ世界を三つに表現できるのである。読んだり聞いたりする立場からすると、三つの違った世界を持つことができるのである。違った言葉を学ぶと違った世界を持つことができるのである。ひとつの言葉しか知らない人はひとつの世界しか持つことができないのである。読む立場からすると私はほかにもいくつかの世界をもっている。特に琉球語に関して言えば、ある琉球語の言葉を聞くと、過去にその言葉が使われた時の情景が鮮明によみがえってくることである。においさえもよみがえってくることがある。たとえそれらが、悲しい、恥ずかしい、忘れてしまいたいような出来事であったとしても、言葉そのものが、それらの思い出を美しいものへと変貌(へんぼう)させてしまうのである。付随して、過去に読んだ琉球語とは関係のない本の内容までもがなぜかよみがえってくる。それは何とも言えない至福の時間である。琉球語は私にこの上もない幸福感をもたらすのである。「琉和辞典」を翻訳している時の私はほんとうにしあわせであった。

 

 

   ?ゐ:(ぅうぃ)

 

 ?ゐ「ぅうぃ」の発音は、「うぃ」の前に軽く「ぅ」を添える感じである。「うぃ」は、英語の「wind」、「winter」の「wi」と同じである。日本語の共通語にも昔は、「wi」の発音があったが現在は消滅してしまった。その痕跡として「ゐ」という文字が現在も残っている。この文字をワープロで出すには、「うぃ」と打てばヒットする。「?ゐ」(ぅうぃ)の発音は琉球語特有である。試しに、英語で、「wind」、「winter」を「ぅうぃんどぅ」、「ぅうぃんたあ」と発音してもほとんど違和感なく通じるようである。つまり区別ができないということである。なお、「ぅうぃ」は、「ぅうぃい」と長音で用いられるのがほとんどで、3語のみ、「ぅうぃっちゅ」のように促音が続く。

 

上(ぅうぃい)@: (名) @上。場所・地位・優劣などの高いところ。 A上。表面。 

B上。以上。 @此(か)ん成(な)たる上(ぅうぃい)や仕方(しかた)あ無(ね

え)ん。/こうなった以上は、しかたがない。

追(ぅうぃ)い出(ぃん)じゃ⁼しゅん@: (他 ⁼さん、⁼ち) 追い出す

上(ぅうぃい)出(ぃん)じ⁼ゆん@: (他 ⁼らん、⁼てぃ) 成長するに従って(容貌

  などが)よくなる。おいまさる。上(ぅうぃい)破(やん)でぃゆん、の対。

上上(ぅうぃい,ぅうぃい)@: (名) 高貴のかたがた。家柄のよい人たち。上層階級。

  上方(ぅうぃいかた)、ともいう。下々(しむじむ)、の対。

上親(ぅうぃい,ぅうぇえ)御婿(うむうく)@: (名) 王の婿の敬称。王女をめとっ

  たかた。廃藩後は、旧国王尚侯爵の婿をもいった。

上置(ぅうぃいう)⁼ちゅん@: (他 ⁼かん、⁼ち) (品物を交換する場合などに、劣

る物の方に、補いとして他の品または金銭を)添える。 @汝(ぃやあ)や幾(ちゃ

っ)さ上置(ぅうぃいう)ちゃが。/おまえはいくら添えるか。 @品(しな)ぬ悪

(わっ)さ事(くとぅ)千貫(しんぐぁん)上置(ぅうぃいう)ちぇえさ。/品が悪

いから千貫添えたのだよ。

追(ぅうぃ)い落(う)とぅ⁼しゅん@: (他 ⁼さん、⁼ち) @追い落とす。追い抜い

  て勝つ。 Aひったくる。強引に奪い取る。

上運天(ぅうぃいうんてぃん)@: (名) 上運天。 ※上運天(かみうんてん)は、

  国頭郡今帰仁村の地名。

上方(ぅうぃいかた)@: (名) @中頭(なくがみ)地方。下方(しむかた)[島尻地

方]に対していう。 A上層階級。上上(ぅうぃい,ぅうぃい)、ともいう。下方(しむ

かた)、下方(しちゃかた)、の対。

追(ぅうぃ)い越(ぐ)し散(ち)らか⁼しゅん@: (他 ⁼さん、⁼ち) 追い散らす。

散々に追い立てる。追(ぅうぃ)い散(ち)らか⁼しゅん、ともいう。

宇江城(ぅうぃいぐすぃく)⓪: (名) 宇江城。 ※宇江城(うえぐすく)は、島尻

郡久米島町の地名。

上壊(ぅうぃいくん)⁼しゅん@: (他 ⁼さん、⁼ち) ぶちこわす。だいなしにする。

だめにする。 @童(わらび)ん達(ちゃあ)が集(あつぃ)まてぃ遊(あすぃ)ぶ

すぃ親(うや)ぬ来(っち)上壊(ぅうぃいくん)ちゃん。/子供たちが集まって遊

ぶのを親が来てぶちこわした。 @折角(しっかく)為(っさ)んでぃ為(しゅ)る

会(くぁい)上壊(ぅうぃいくん)さったん。/せっかくやろうとしていた会をぶち

こわされた。

追(ぅうぃ)い越(く)ん抜(ぬ)⁼じゅん@: (他 ⁼がん、⁼じ) 追い越す。追い抜

く。越(く)ん抜(ぬ)じゅん、も追い越す意。

上里(ぅうぃいざとぅ)@: (名) 上里。 ※上里(うえざと)は、糸満市に存在し

  た地名。

仰(ぅうぃい)し⓪: (名) 仰せ。貴人のおことば。御命令。

上江洲(ぅうぃいじ)⓪: (名) 上江洲。 ※上江洲(うえず)は、うるま市および

島尻郡久米島町の地名。余談であるが、かつては、どちらも具志川村であった。同県

に同名の村名が存在するのも珍しいが、具志川村上江洲が二か所あったのだ。郡名は

それなりの意味があったのである。

仰(ぅうぃい)し事(ぐとぅ)⓪: (名) 仰せごと。貴人の御命令。 @仰(ぅうぃ

  い)し事(ぐとぅ)拝(うぅが)でぃ。/仰せごとを拝して。

上下(ぅうぃいしちゃ)@: (名) うえした。上下。

仰(ぅうぃい)為召候(しみせえ)ん@: (他・不規則) 仰せられる。おっしゃる。

また、お命じになる。言(ぃゆ)ん[言う]の敬語。

御衣裳(ぅうぃいしょお)⓪: (名) 御衣裳。いしょお(衣裳)の敬語。

宇栄田(ぅうぃいだ)⓪: (名) 宇栄田。 ※宇栄田(うえだ)は、現在は、上田(う

えた)と呼ばれ、豊見城市の地名。なぜ清音になったのか私には興味深い。上田(う

えだ)のほうが発音しやすいと思うのであるが。 

上立(ぅうぃいた)ち⓪: (名) 成長。発育。おい立ち。生立(ぅうぃた)っち、と

  もいう。

上立(ぅうぃいた)ち童(わらび)⓪: (名) 発育する子供。

上立(ぅうぃいた)⁼ちゅん@: (自 ⁼たん、⁼っち) 成長する。発育する。おい立つ。

追(ぅうぃい)い立(た)てぃ⁼ゆん@: (他 ⁼らん、⁼てぃ) 追い立てる。

上段(ぅうぃいだん)@: (名) (たななどの)上の段。上段。また、(役柄などの)

  上位。しちゃだん(下の段)の対。

上地(ぅうぃいち)⓪@: (名) 上地。 ※上地(うえち)は、中頭郡読谷村、沖縄

市および宮古島市下地の地名。

泳(ぅうぃい)ぢ⓪: (名) 泳ぎ。水泳。

上儀保(ぅうぃいぢいぶ)@: (名) 上儀保。 ※上儀保は、かつて那覇市首里に存

  在した地名。上儀保(かみぎぼ)、上儀保(うえぎぼ)どちらか不明。

御行会(ぅうぃいちぇ)え⓪: (名) 御面会。お会いすること。会う[(行会(いちゃ)

ゆん]ことの敬語。 @御行会(ぅうぃいちぇ)え為(しゅ)ん。/お会いする。お 

目にかかる。拝顔する。御行会(ぅうぃちぇ)え拝(うぅが)ぬん、ともいう。

動(ぅうぃい)⁼ちゅん⓪: (自 ⁼かん、⁼ち) 動く。ゆれ動く。ゆらぐ。また、動い

て位置を変える。ずれる。 @ランプぬ動(ぅうぃい)ちゃ擬(ぎい)すぃが地震(ね

え)どぅ有(や)がやあ。/ランプが動いているが地震かなあ。 @人(っちゅ)ぬ

合図(ええじ)為(っし)ん動(ぅうぃい)ちん為(さ)んたん。/人が呼んでも身

動きもしなかった。 @地震(ねえ)ぬ寄(ゆ)てぃ門(じょお)ぬ柱(はあや)ぬ

動(ぅうぃい)而居(ちょお)ん。/地震があって、門柱がずれている。

泳(ぅうぃい)⁼ぢゅん⓪: (自 ⁼がん、⁼ぢ) 泳ぐ。

茴香(ぅうぃいちょお)⓪: (名) 植物名。ういきょう。葉は食用に、実は薬用にな

  る。

追(ぅうぃ)い散(ち)らか⁼しゅん@: (他 ⁼さん、⁼ち) 追い散らす。追い払う。 

@童(わらび)ん達(ちゃあ)追(ぅうぃ)い散(ち)らかしゅん。/子供たちを追

い散らす。 

追(ぅうぃ)い付(つぃ)き回付(まあつぃ)き@: (副) どこまでも追い回すさま。

付け回すさま。 @姦(かしま)しゃる価(あたい)追(ぅうぃ)い付(つぃ)き回

付(まあつぃ)き為(っし)。/うるさいぐらい付け回して。

追(ぅうぃ)い付(つぃ)き⁼ゆん@: (自 ⁼らん、⁼てぃ) @追い付く。 @今(な

ま)から有(や)てぃん追(ぅうぃい)付(つぃ)きらりいがやあ。/今からでも追

い付けるかねえ。 A追いかける。

追(ぅうぃ)い使(つぃ)けえ⓪: (名) 身近に置いて使う者。小間使い。追い使う

  者の意。

追(ぅうぃ)い付(つぃ)⁼ちゅん@: (自 ⁼かん、⁼ち) 追い付く。

老(ぅうぃい)な老(ぅうぃい)な⓪: (名) おいおい年をとってのち。老後。 @

老(ぅうぃい)な老(ぅうぃい)なぬ事(くとぅ)今(なま)から考(かんげ)え而

居(とお)かんだれえ、老(ぅうぃい)な老(ぅうぃい)な哀(あわ)り為(しゅ)

んどお。/老後のことを今から考えておかなくては、老後はみじめになるぞ。

追(ぅうぃ)い抜(ぬ)⁼じゅん@: (⁼がん、⁼じ) 追い抜く。追い越す。

上(ぅうぃい)ぬ鳥居(とぅり)@: (名) 首里城の門の名。御城(うぐすぃく)、の

  項参照。

上歯(ぅうぃいばあ)@: (名) 上歯。上あごの歯。しちゃばあ(下歯)の対。

上原(ぅうぃいばる)⓪: (名) 上原。 ※上原(うえはら)は、国頭郡大宜味村、 

うるま市与那城、宜野湾市、中頭郡西原町および八重山郡竹富町の地名。

宇栄原(ぅうぃいばる)⓪: (名) 宇栄原。 ※宇栄原(うえばる)は、那覇市の地

名。

追(ぅうぃ)い払(ほお)⁼ゆん⓪: (他 ⁼らん、⁼てぃ) 追い払う。追っぱらう。

上間(ぅうぃいま)⓪: (名) 上間。 ※上間(うえま)は、那覇市の地名。

上勝(うぃまさ)い@: (名) 「おいまさり」に対応する。成長するに従って美しく

なること。上破(ぅうぃいやん)でぃ、の対。 @上勝(うぃまさ)い為居(しょお)

ん。/成長するに従ってよくなっている。

上向(ぅうぃいむ)てぃ@: (名) 上の方。かみの方。上の側。 @川(かあら)ぬ

  上向(ぅうぃいむ)てぃ。/川上。

上破(ぅうぃいやん)でぃ⓪: (名) 成長するに従って悪くなること。大きくなって

  顔などが醜くなること。

上破(ぅうぃいやん)でぃ⁼ゆん⓪: (自 ⁼らん、⁼てぃ) 成長するに従って悪くなる。

大きくなって顔などが醜くなる。上出(ぅうぃ,ぃん)じゆんの対。

上与那原(ぅうぃいゆなばる)@: (名) 上与那原。 ※上与那原(うえよなばる)

は、島尻郡与那原町の地名。

老(ぅうぃい)⁼ゆん⓪: (自 ⁼らん、⁼てぃ) 老いる。老年になる。

上(ぅうぃい)⁼ゆん@: (自 ⁼らん、⁼てぃ) 成長する。発育する。大きくなる。「生

ふ」に対応する。 @程(ふどぅ)上(ぅうぃい)ゆん。/背たけが伸びる。成長す

る。

植(ぅうぃい)⁼ゆん@: (他 ⁼らん、⁼てぃ) 飢える。

初(ぅうぃい)らあしゃん⓪: (形) 年よりふけてみえる。年とって見える。

上(ぅうぃい)出来(りき)い⓪: (名) 面白い人。いつも人を面白がらせる人。愉

  快な人。

上(ぅうぃい)出来擬(りきぎ)さん⓪: (名) 面白そうである。

上(ぅうぃい)出来(りき)さん⓪: (形) 面白い。楽しい。愉快である。興味を感

じる。上(ぅうぃい)出来(るき)さん、ともいう。 @上(ぅうぃい)出来(りき)

さ為(しゅ)ん。/面白がる。楽しむ。

上(ぅうぃい)出来所(りきどぅくる)⓪: (名) 面白い所。また、観光地。景色の

  よい所。

上(ぅうぃい)出来(るき)さん⓪: (形) 上(ぅうぃい)出来(りき)さん、と同

  じ。

初(ぅうぃい)ん子(ぐぁ)@: (名) うい子。初子。

初(ぅうぃい)ん子(ぐぁ)初(ふぁつぃ)ん子(ぐぁ)@: (名) うい子。初子。

  初(ぅうぃい)ん子(ぐぁ)、を強めて言った語。

老人(ぅうぃ,っちゅ)⓪: (名) 年寄り。老人。 @昔(んかし)ぬ老人(ぅうぃ,

ちょ)お触(ふ)り者(むん)どお、御孫(ぅんまが)あ賺(すぃか)さん、嫁(ゆ

み)賺(すぃか)ち。/昔の年寄りはばかだよ。孫はあやさず、嫁をあやして(子も

り歌の文句)。

老人(ぅうぃ,っちゅ)童(わらび)⓪: (名) 年寄りと子供。

生(ぅうぃ)っ立(た)ち⓪: (名) 生(ぅうぃ)い立(た)ち、と同じ。