表紙 前文

 

 ?あ ?い 'い ?う 'う ?え 'え ?お 'お                             ?め   ?や  ?ゆ  ?よ       ?わ  ?ゐ  ?ゑ  ?ん  

 

 「首里城正殿」の焼失から半年が経とうとしている。首里城正殿が世界遺産であると勘違いしている人の数がかなりである。「琉球王国のグスク及び関連遺産群」に指定されている九つの中の一つが「首里城跡」である。首里城は第二次世界大戦によりほとんと破壊されたが、城壁・礎石などの一部がわずかに残った。そのわずかに残ったものが「世界遺産」なのである。1992年に復元された首里城正殿は「世界遺産」ではない。「ワルシャワ歴史地区」を例外として、復元された建物は基本的に「世界遺産」には指定されない。私は復元される前の「首里城跡」・「今帰仁城跡」・「勝連城跡」をこの目で見たことがある。実にみすぼらしい、貧相なものであった。首里城正殿の復元前、戦前の首里城を見たことのある人達に首里城正殿の屋根の瓦は赤であったか黒であったかの聞き取り調査をしたそうである。結果は、ほぼ半々であったそうだ。首里城正殿に対する一般の人達の認識はその程度のものだったのであり、屋根の瓦が赤なのか黒なのかがわからないほどに劣化していたのである。私の机の壁に上杉家が所蔵する戦前の首里城の写真が掛けてある。現在の名護市役所のほうがはるかに立派である。さて「首里城」はいつから沖縄のシンボル・誇りとなったのであろうか。明らかに復元後であって、それ以前に首里城が沖縄のシンボルであった歴史はないように思う。首里城の焼失を目の前にして泣く人々がいたが、あれはたぶん、過去への憧憬(しょうけい)であり、沖縄のシンボル・誇りが消え去ろうとすることへの涙だと思われる。消失しようとする「沖縄語」を目の前に泣く人は誰もいない。沖縄の人々には、昔の「琉球王国」が美しく輝かしいものであったという幻想があるようだ。それを打ち壊したのが日本本土であり、アメリカであると思っている人が多いのである。はたしていつになったら、そのような幻想・呪縛から抜け出すことができるのであろうか。「沖縄語辞典」を翻訳して痛切に感じることであるが、「沖縄語」で表現された世界がそれほど美しく輝かしいものではなかったということである。「沖縄語」が美しく輝かしいものではないという意味ではない。それによって表現された昔の沖縄がそれほど美しく輝かしいものではなかったということである。現在62歳の私の小中学生のころは本当に貧しかった。その貧しかった私よりも「琉球王国」に生きた人々は、はるかに貧しかったのである。士族の出身(祖先は第二尚氏第10代国王尚質の妻)である比嘉春潮(ひがしゅんちょう)の随筆によると、氏の幼少のころの食事は現在からは想像できないほど貧しいものであった。主食は蒸したサツマイモで、弁当もそうであったらしく、豚肉は盆と正月にしか食べられなかったそうである。明治の比較的裕福な比嘉春潮でさえそうであった。「琉球王国」に生きた人々ははたしてどうなのであっただろうか。江戸時代の日本本土の農民の暮らしも「琉球王国」の人々とそれほど違いはなかったようである。荻生徂徠(おぎゅうそらい)の「政談(せいだん)」を引用する。「麦・粟(あわ)・稗(ひえ)などの雑穀を食し、味噌をも食せず、すくも[枯れた葦(あし)や萱(かや)]火を焚(た)き、麻・木綿を織って着し、筵(むしろ)・薦(こも)の上に寝臥(ねふ)したる」という生活だった。「首里城」が美しく輝かしい「琉球王国」のシンボルであったはずはないのである。美しく輝かしい沖縄は今現在なのである。こんなあたりまえなことがわからない人があまりにも多いように思われる。私は、現在、名護市為又にある「チャイルドリンク保育園」の用務員をしている。ここから見える名護湾は首里城から見える景色よりも美しい。本当に美しく輝かしいものは、今現在の今いる場所であることを園児には理解してほしいと思う。「琉球王国」に生きた人々もそれを理解していたはずである。今現在目の前で見ているすべてものが焼失前の「首里城正殿」なのである。美しく輝かしいものは、過去に求めるものではなく、現在と未来の中にある。

 

   ほ:ぼ:ぽ

 

ホオ⓪: (感) @(母音が鼻音化する)目下の年長に呼ばれて応答する語。はい。肯

定や承諾の時には、オオ、という。 ➁(鼻音化しない)目下の年長に呼ばれてぞん

ざいに応答する語。ああ。

頬所(ほお)⓪: (名) 女の陰部。ほと。 @頬所(ほお)為(しゅ)ん。/交接す

る。 ※大言海では、「ほと」に「含所」という漢字が当てられている。「ほと」は古

事記にも見える共通語である。

方(ほお)@: (名) 方。方向。 @何処(まあ)ぬ方(ほお)。/どっちの方。

法(ほお)@: (名) 法。方法。 @法(ほお)ぬ無(ねえ)ん。/方法がない。

棒(ぼお)⓪: (名) 棒。荷物をかつぐ棒。武術用の棒など。振(ぶ)い、の項参照。

謀(ぼお)⓪: (名) はかりごと。たくらんで、だますこと。 @謀(ぼお)為(し

ゅ)ん。/はかる。だます。 @謀(ぼお)為(さっ)たん。/はかられた。だまさ

れた。

棒上(ぼおあ)がい⓪: (名) 増長。つけ上がること。

這(ほお)い出(ぃん)じ⁼ゆん⓪: (自 ⁼らん、⁼てぃ) 這い出る。

這(ほお)い風守(がじまる)⓪: (名) 這って長く延びたガジマル[風守(がじま

る)]の木。

ホオオオ@: (名) (鼻音化して発音されるのが普通。)オオホオ、と同じ。オオホオ、

  の方を多く用いる。

放下(ほおか)⓪: (名) 曲芸。軽業・奇術・手品の類。放下。

妨害(ぼおがい)@: (名) 目上に対して乱暴を働くこと。

方角(ほおがく)@: (名) 方角。

帽子(ぼおし)⓪: (名)[新] 帽子。

棒肉(ぼおじし)⓪: (名) 豚の背中の肉。豚肉中最も上等。豚ロース。

棒敷(ぼおし)ち人(なあ)⓪: (名) 自由労働者。棒だけを持ち、それを尻に敷い

て雇う人の来るのを待つ、最下層の労働者。立ちん坊。

棒縞(ぼおじま)あ⓪: (名) 棒縞の着物。白地に黒の太い縞が縦にあるもので、青

  少年の夏の着物。

坊主(ぼおじゃ)あ⓪: (名) 坊や。小さい男の子の愛称。その敬語は、坊主(ぼお

  じゅう)[ぼっちゃん]。

芒種(ぼおしゅう)@: (名) 芒種。二十四節の一つ。小満(しゅうまん)、とともに

沖縄で最も雨の多い季節。

坊主(ぼおじゅう)⓪: (名) 目上の家の小さい男の子の愛称。ぼっちゃん。平民が

  用いる。

坊主(ぼおずぃ)⓪: (名) @坊主。僧侶。 ➁坊主頭。また、幼児などの頭。

坊主撫(ぼおずぃな)でぃい⓪: (名) 産剃り。小児が生まれて七日目に初めて産毛

を剃る式。坊主(ぼおずぃ)[頭]を剃るということばを避けて、‐なでぃ(撫で)と

いったもの。

帚(ほおち)⓪: (名) 箒。 @帚(ほおち)為(しゅ)ん。/掃く。掃除する。

掃(ほお)ち落(う)とぅ⁼しゅん⓪: (他 ⁼さん、⁼ち) @掃き落とす。 ➁(病人

をよく看護して、病気を)掃き落とすように直らせる。 ※現在は、治す、という漢

字の方が適切である。

掃(ほお)ち掛(か)ち⓪: (名) 掃除。箒で掃くこと。‐かち、は反復する意の接

  尾辞。

箒星(ほおちぶし)⓪: (名) ほうき星。彗星。入(い)り髪(がん)星(ぶし)、と

  もいう。

包丁(ほおちゃあ)⓪: (名) 包丁。

忘却(ぼおちゃく)@: (名)[文] 忘却。 @恩義(うぅんぢ)忘却(ぼおちゃく)

情(なさき)切(ち)り輩(やから)。[恩義忘却 情け切れやから(大川敵討)]恩義

を忘れ情愛のなくなったやつ。 ※大川敵討(おおかわてきうち)は久手堅親雲上(く

でけんぺえちん)作の組踊である。

庖丁(ほおちゅう)⓪: (名) @料理人。包丁(ほおちゃあ)、を上手に使う人。板前。 

  ➁料理。

掃(ほお)⁼ちゅん⓪: (他 ⁼かん、⁼ち) 掃く。

棒切(ぼおち)らあ⓪: (名) わがまま者。強情者。棒切(ぼおち)り者(むん)、と

  もいう。

棒切(ぼおぢ)り⓪: (名) 棒切れ。棒切(ぶんぢ)り、ともいう。

棒切(ぼおち)り者(むん)⓪: (名) わがまま者。強情者。

掃(ほお)ち入(ん)⁼ちゅん⓪: (他 ⁼かん、⁼ち) @掃き込む。ひとところに掃き

集める。 ➁(食物を)かきこむ。

鳩(ほおとぅ)⓪: (名) はと。子小(っくぁぐぁあ)一(てぃい)ちぇえ[子ども

を一人]といって鳴く。 @琴(くとぅう)呉(くぃ)い呉(くぃ)い子小(っくぁ

ぐぁあ)一(てぃい)ちぇえ奥武山(おおぬやま)行(ぃん)ぢ生(な)さわ呉(く

ぃ)らやあ。(童謡)クトゥークィークィー(鳩の鳴き声)、子供を一人奥武の山へ行

って生んだらあげよう。 *混効験集:坤巻・気形に、はうと、とある。

棒取(ぼおどぅ)い添取(すぃいどぅ)い⓪: (名) @乱暴を働くこと。 ➁勝手に

他人の者を持ち去ること。

ボオドゥル@: (名) 練乳。外来語か。 ※ボーロは、ポルトガル語であるが、若干

  意味が違うようである。

鳩(ほおとぅ)ん子(ぐぁ)⓪: (名) 鳩の子。 @良(ゆ)か人(っちゅ)ん子(ぐ

ぁ)あ鳩(ほおとぅ)ん子(ぐぁ)。/士族の子は鳩の子のように美しい。

鳩胸(ほおとぅんに)⓪: (名) はと胸。

放蕩(ほおとお)@: (名) 放蕩。

放蕩人(ほおとおにん)@: (名) 放蕩人。

放蕩者(ほおとおむん)@: (名) 放蕩者。

頬所張(ほおは)い⓪: (感) 火事の時に叫ぶまじないの語。火事を見ればかならず

二度叫ばなければならないとされた。この声を聞けば男は火事場へかけつけ、女は火

の神に水をあげる。頬所(ほお)[女陰]は古来魔除けになっているので、頬所(ほお)、

をあらわにして見せるという意と思われる。‐はい<張(は)ゆん。火事が起こると、

頬所張(ほおは)い、の声がたちまち四方に相呼応して、皆火事場へ赴いたものであ

った。

方拝餅(ほおはいむうちい)⓪: (名) 餅(むうちい)、と同じ。その項参照。 ※ほ

おはい、は上項と同じ意味だと思われる。月桃(さんにん)、の葉に包んだ場合、女陰

と同じ形に見える。

棒振(ぼおふ)やあ⓪: (名) ぼうふら。棒を振る者の意。那覇では、雨(あみ)ぬ

  子(っくぁ)、という。 ※共通語の「ぼうふら」も「棒を振る虫」という意味である。

坊々(ぼおぼお)⓪: (名) 坊や(小児語)。

平平(ぽおぽお)⓪: (名) 料理の名。焼きぎょうざのようなもの。小麦粉を水でこ

ね、薄く伸べて、中に細かく刻んだ豚肉・みそなどを包み、鍋で焼いたもの。料理法

も名前も中国伝来のものと思われる。 ※現在のポーポーとは違う感じがする。

葬(ほおむ)⁼ゆん@: (他 ⁼らん、⁼てぃ) [文]葬る。埋葬する。

這(ほお)⁼ゆん⓪: (自 ⁼らん、てぃ) 這う。 *おもろさうし・83に、はうて、

  とある。

放(ほお)⁼ゆん@: (他 ⁼らん、てぃ) (故意に、または誤って)こぼす。散らす。

奪(ぼお)⁼ゆん⓪: (他 ⁼らん、⁼てぃ) 奪う。ぶんだくる。奪(ぅんば)ゆん、は

  文語。

放(ほお)り者(むん)@: (名) 不品行な女。家に落ち着かずに出歩く女。あばず

  れ。

放(ほお)り⁼ゆん@: (自 ⁼らん、⁼てぃ) こぼれる。散らかる。

丸(ぼお)ん球(たあ)⓪: (名) 丸い球。球形のもの。橋のらんかんの擬宝珠(ぎ

ぼし)などをいう。

丸(ぼお)ん球(とぅう)⓪: (名) 丸(ぼお)ん球(たあ)、と同じ。

干(ほ)ろ干(ほ)ろ@: (副) 布・着物などの乾いたさま。また、衣ずれのさま。 

@絹(いいちゅ)直々(びたびた)甲斐絹(かいき)干(ほ)ろ干(ほ)ろ。/絹は

柔らかくぴったりと肌に合い、甲斐絹はホロホロと音を立てて、ともに気持ちがよい。

ボロンボロン@: (副) つづみの音。旧暦3月3日には平民の娘たちがつづみを打ち、

  歌を歌って遊ぶ習慣があった。

ポン@ (副) ぽとん。物の落ちる時の音。また、落ちるさま。水中に小石を投げた場

合の音など。

満々(ぼんぼん)@: (副) たぷたぷ。水などが満ちあふれているさま。 @「井戸

(かあ)ぬ水(みぜ)え如何(ちゃあ)が。」「満々(ぼんぼん)為居(しょお)ん。」

/「井戸の水はどんなか。」「いっぱいある。」

ポン目化(みか)⁼しゅん@: (自 ⁼さん、⁼ち) ぽとんと音を立てる。ぽとんという。 

  @ポン目化(みか)ち落(う)てぃゆん。/ぽとんと落ちる。