表紙 前文

 

 ?あ ?い 'い ?う 'う ?え 'え ?お 'お                             ?め   ?や  ?ゆ  ?よ       ?わ  ?ゐ  ?ゑ  ?ん  

 

   き

 

 カ行の中の「か」と「く」に比較して「き」の収録語数が目立って少ない。これは、ほとんどの語が口蓋化によって「ち」に変化したためであるが、それでは、なぜこれだけの語が変化せずに「き」のまま残ったのか疑問である。これは、すべてが「ち」に変化すると同音異義語が多くなるためだと考えられる。もう一つは、将来はすべての語が「ち」に変化する途上にあって、琉球語そのものが消滅危機言語となり、変化が途中で止まってしまったとも考えられるが、やはりこれらは、残るべくして残ったと考えたほうがいいようである。「き」の項目では、「木」と「毛」で始まる語が目立つようである。なお、おもろさうしの「き」で始まる語のほとんど多くは、今日では「ち」と発音する語である。

 

木(きい)⓪: (名) 木。樹木。木材。

毛(きい)@: (名) 毛。毛髪・羽毛・獣毛など。 髭(ふぃじ)、は顔のひげのみを

いう。

毛色(きいいる)@: (名) 毛色。獣類の毛の色。

胡瓜(きいうい)⓪: (名) きゅうり。

木臼(きいううすぃ)⓪: (名) 木臼。木製の臼。つき臼と石臼型のひき臼とがある。

木滓(きいかすぃ)⓪: (名) おがくず。

木草(きいくさ)⓪: (名) 草木。草木(くさき)、ともいう。

木釘(きいくじ)⓪: (名) 木釘。

木結髪(きいじいふぁあ)⓪: (名) 木製のかんざし。平民の女がさすもの。

木門(きいじょお)⓪: (名) 木造の門。石門(いしじょお)[石垣の門]、屋門(や

  あじょお)[屋根門]などに対する。

毛記(きいしる)@: (名) 獣類の毛のぐあい。毛並・毛色・毛のつやなど。

木細工(きいぜえく)⓪: (名) 大工。石細工(いしぜえく)、鍛冶細工(かんぜえく)

  [鍛冶屋]などに対する語。

片足(ぎいた)あ⓪: (副) 片足とび。子供の遊戯の名。

片足(ぎいた)あ問答(むんどお)⓪: (名) 子供の遊戯の名。片足とびをしながら

  相手を倒す遊び。

木槌(きいぢちゃ)あ⓪: (名) 木づち。才槌(せえぢちゃ)あ、ともいう。

木切(きいぢ)り⓪: (名) 木切れ。木片。

毛糸(きいとぅ)@: (名) 毛糸。

木(きい)ぬ皮(かあ)⓪: (名) 木の皮。樹皮。

木(きい)ぬ陰(かあぎ)⓪: (名) 木陰。

木(きい)ぬ芯(しん)⓪: (名) こずえ。木の(先端の)芯の意。

木(きい)ぬ生(な)い⓪: (名) 木の実。果実。くだもの。

木(きい)ぬ根(にい)⓪: (名) 木の根。

木(きい)ぬ葉(ふぁあ)⓪: (名) 木の葉。

木(きい)ぬ葉(ふぁあ)御門(うじょお)⓪: (名) 緑門。木の葉の緑で飾ったア

  ーチ。

木登(きいぬぶ)い⓪: (名) 木登り。

木(きい)ぬ髭(ふぃじ)⓪: (名) 植物の気根。 

木(きい)ぬ叉(また)⓪: (名) 木のまた。木の枝の分かれる所。 @木(きい)

ぬ叉(また)から生(ぅん)まりたん。/木のまたから生まれた。親不孝者の形容と

していう。 @汝(ぃやあ)や木(きい)ぬ叉(また)からどぅ生(ぅん)まりてぃ

い。/おまえは木のまたから生まれたのか、この不孝者。

木(きい)ぬ果実(むっくう)⓪: (名) 木の実。小さい、食べられない実を多くい

  う。木(きい)ぬ生(な)い、はたいてい大きくて食べられるもの。

毛剥(きいは)ぎ舞鳥(もおとぅい)@: (名) 毛の抜けたつぐみ。老衰した者のた

とえとなる。おいぼれ。

木足(きいびしゃ)あ⓪: (名) 竹馬。木の足の意。

毛産毛立(きいふくぎだ)ち@: (名) 鳥肌が立つこと。きいは毛、ふくぎは細毛。 

  ※ふく毛は広辞苑にも載っている共通語である。

木仏(きいぶとぅき)⓪: (名) 木仏。木造の仏像。

毛密(きいまあ)@: (名) 毛深い者。毛むくじゃら。

木枕(きいまっくぁ)⓪: (名) 木枕。もと枕はすべて木製で、木の柱を四角に切っ

たものを用いたが、のちに四角の指物になり、黒い漆をぬった。

毛見口(きいみいくち)@: (名) 毛髪のはえぎわ。顔・えりくびなどの髪のはえぎ

  わ。

毛虫(きいむし)@: (名) 毛虫。

毛桃(きいむむ)@: (名) 皮に細毛のある桃。毛桃の意。水密桃に似て小さい。単

に、桃(むむ)、といえばふつう楊梅をいう。 ※楊梅は、ヤマモモのこと。沖縄の毛

桃は確かに小さい。

毛無(きいもお)@: (名) あるべきところに毛の無いこと。また、その者。ひげの

  無い者は、髭無(ふぃじもお)、という。

怪我(きが)⓪: (名) @けが。負傷。 ➁被害。損害。 @何(ぬう)ん怪我(き

が)ぬ無(ねえ)ん。/何の被害もない。 @短気(たんち)腹立(はらだ)ちや怪

我(きが)ぬ元(むとぅ)。/(諺)短気・立腹は損害を受けるもと。 

木垣(きかち)@: (名) 木立。屋敷内の木立などをいう。

怪我人(きがにん)⓪: (名) @けが人。負傷者。 ➁被害者。

木殻(きから)あ⓪: (名) 木のかけら。木のけずりくず・切れはし・根の割ったか

けらなど。

毛髪(きからじ)@: (名) 毛髪。

月橘(ぎきじ)⓪: (名) 灌木の名。月橘。いけがきにする。材は黄色で堅く、印材・

版木・櫛・かんざしなどにす。

月橘垣(ぎきじがち)⓪: (名) 月橘(ぎきじ)、のいけがき。

刻(きざ)い@: (名) 階段。きざはし。 @この語は、源氏物語・帚木巻に見える、

「きざみ」と関係のある語と思われる。きざみは、段・級:階級などのことである。

雨の夜の品定め、「品定まりたる中にも又きざみきざみありて」。源氏物語ではこれ以

外にも合計で7回「きざみ」という語が登場する。 *混効験集:乾巻・言語に、き

じやりきじやり、とあり、その注釈で源氏物語・帚木が引用されている。

慶佐次(きさじ)⓪: (名) 慶佐次。 ※「けさじ」、国頭郡東村の地名。

⁻ぎさん: (接尾) 〜そうだ。〜らしい。 @涼(すぃだ)ぎさる二階(にけえ)。/

涼しそうな二階。 @彼(あ)んやいぎさん。/そうらしい。 @直而居(のおとお

い)ぎさん。/直っているらしい。 @意地(うじ)らあしぎさる童(わらび)。/か

わいらしい子供。 @上出来(ぅうぃいりき)ぎさん。/おもしろそうである。 @

懐(なつぃ)かしぎさ為居(しょお)ん。/悲しそうにしている。 @降(ふ)いぎ

さあやん。/降りそうである。 @行(い)ちぎさあ。/行きそう。 など。

傷(きじ)@: (名) 傷・器物・人体の傷。また、容姿・行為などの欠点。

下司(ぎし)@: (名) 平侍。また、平役人。下級官吏。「げす(下司。下衆)」に対

応する語か。按司(あじ)、などの高官にたいする。 *おもろさうし・305に、け

す、とある。

穿(き)じ振(ふ)い⓪: (副) 食物を食い散らすさま。穿(き)じ<穿(き)じゅ

  ん。 @穿(き)じ振(ふ)い為(しゅ)ん。/※動詞化。

穿(き)じ放(ほお)りい⓪: (副) 穿(き)じ振(ふ)い、と同じ。

気付物(きじむな)あ友(どぅし)⓪: (名) くされ縁の友達。気付物(きじむん)、

は漁がうまく、その友達になれば漁にめぐまれるので縁を切りにくくなると言われる。

そこで、くされ縁の悪友をこういう。

気付物(きじむな)あ火(びい)⓪: (名) 夜、山中などで見える、線香の火のよう

  な小さな火をいう。気付物(きじむん)、の火の意。

気付物(きじむな)あ火傷(やあちゅう)⓪: (名) 皮膚にできる、原因不明のやけ

どのような傷。気付物(きじむん)、のしわざといわれる。

気付物(きじむん)⓪: (名) 邪神の一種。木の精。背は小さく、赤髪平(あかがん

たあ)[あかちゃけたおかっぱ頭]をしているという。漁がうまく、魚の目玉だけを食

い、また、人家に火をもらいに来るという。気付物(きじむん)、に関してはさまざま

な民話がある。

下座(ぎじゃあ)@: (名) 意地の悪い女。那覇から来た語か。

掻回(きじゃあ)⁼しゅん@: (他 ⁼さん、⁼ち) かきまぜる。かき回す。

穿(き)⁼じゅん@: (他 ⁼がん、⁼じ) @まぜる。攪拌する。 ➁皮肉をいう。(人

  を)中傷する。

桁(きた)⓪: (名) 桁。屋根・床などにさし渡す細い材木など。屋根の桁は、天井

桁(てぃんじょおぎた)、床に渡すものは、床桁(ゆかぎた)、という。 @掛(か)

きいどぅんせえ桁(きた)ぬどぅ折(うぅ)りゆる。/はかりにかければ桁が折れる

の意。優劣なし。また、どっちもどっち。 ※この桁は、秤(はかり)の棹(さお)

をさす語のようである。

木地(きち)⓪: (名) たるき。

ぎちぎち⓪: (副) ぎしぎし。きしむ音。 @二階橋(にいけえばし)ぬぎちぎち為

  (しゅ)ん。/二階への階段がぎしぎしする。

きっきりいきい⓪: (副) ちゃぼの鳴き声。

先(きっさ)@: (名) さっき。さきほど。 @先(きっさ)来(ちゃ)ん。/さっ

  き来た。 *おもろさうし・172に、けさ、とあり、言葉間書に、「昔也」とある。

きったあきりりん⓪: (副) 綱引きの時の鉦鼓(しょおぐ)、の音。

蹴掛(きっちゃ)き⓪: (名) つまずき。また、失敗。 @走(は)い馬(ぅんま)

ぬ蹴掛(きっちゃ)き。/駿馬のつまずき。猿も木から落ちるの類。 @蹴掛(きっ

ちゃ)き為(しゅ)ん。/つまずく。 @石(いし)んかい蹴掛(きっちゃ)き為(し

ゃ)ん。/石につまずいた。

毬杖(ぎっちょお)⓪: (名) 遊戯の名。一発(いっぱあ)、と同じ。 ※毬杖(ぎっ

ちょう)は広辞苑にも載っている共通語である。違った遊戯のようであるが、関係の

ない語とは思われない。

左利(ぎっちょ)お⓪: (名) 左(ふぃじゃ)やあ[左利き]の那覇語。 ※ぎっち

  ょ、は共通語である。

ぎっちりぎっちり⓪: (副) 人を乗せたかごの音。 @御駕籠(うかぐ)ぎっちりぎ

っちり当山(とおやま)かい、唐(とお)や何処(まあ)やが、蛹(とおやまあ)。/

おかごぎっちりぎっちりトーヤマへ。唐はどこなの、蛹さん。(童謡)。 @この童謡

は、「とおやま」に似た発音の三語を並べて楽しんでいるようである。似たような発音

でありながら、全く違った意味の三語になるところが興味深い。

キットゥ⓪: (名)[新] ケット。毛布。 ※英語のblanketの前が省略された形。広辞

苑には、ケットと記載され、徳富蘆花の不如帰から「毛布(ケット)」が引用されてい

る。なお、英語の発音は、ケットよりも、キットゥに近い。

木戸(きどぅ)⓪: (名) @木戸(きどぅ)退(ぬ)ちゅん[疎遠になる]という句

  で用いる。間柄という意味らしい。

煙(きぶ)さん@: (形) けむい。けむたい。

煙(きぶ)し@: (名) 煙。煙(ちむり)、ともいう。 @煙(きぶ)し回合(まちゃ

あ)しゅん。/煙がうずを巻く。

煙(きぶ)し臭(かざ)@: (名) 煙臭いにおい。

煙(きぶ)やあ灯籠(とぅうるう)⓪: (名) よく燃えないで盛んにくすぶること。

煙(きぶ)⁼ゆん@: (自 ⁼らん、⁼てぃ) けずる。くすぶる。燃えずに煙ばかり出る。

今日(きゆ)⓪: (名)[文] 今日(ちゅう)、の文語。 *混効験集:乾巻・時候に、

けふ、とある。 *おもろさうし・1087に、きよ、とある。おもろさうし・29

1に、けお、とあり、右注に、「今日也」とある。おもろさうし・19に、けよ、とあ

る。

嫌(き)⁼ゆん⓪: (自 ⁼らん、⁼てぃ) 抵触する。さしさわる。かち合って支障を生

ずる。まれな語。 @何(ぬう)とぅん嫌(き)らん。/何ともかち合わない。二種

の薬を飲んでも害がない場合、転居・祭祀などの日がさしさわりがない場合などにい

う。

蹴(き)⁼ゆん⓪: (他 ⁼らん、⁼っち) 蹴る。

帰来適(ぎらいかな)い⓪: (名)[文][儀来河内] 海のあなたにあると信じられて

いる常世。あの世。祈(にら)い適(かな)い、ともいう。口語は、帰来適(ぎれえ

かね)え。祈(にれ)え適(かね)え。

慶良間(きらま)@: (名) 慶良間列島。沖縄本島南部の西方にある列島。 @慶良

間(きらま)あ見(みい)ゆすぃが睫毛(まつぃげ)え見(みい)らん。/慶良間は

見えるがまつ毛は見えない。[灯台もと暗し]の意。 ※晴れてさえいれば、那覇から

慶良間諸島はよく見える。 *おもろさうし・269に、けらま、とある。

慶良間二間切(きらまたまじり)@: (名) [慶良間二間切]慶良間の二つの間切(ま

じり)、すなわち、渡嘉敷(とぅかしち)間切と座間味(ざまみ)間切。

蹴(き)り返(けえ)ら⁼しゅん⓪: (他 ⁼さん、⁼ち) 足にかけてひっくりかえす。

  蹴ってひっくりかえす。

蹴(き)り飛(とぅ)ば⁼しゅん⓪: (他 ⁼さん、⁼ち) 蹴飛ばす。

蹴(き)り放(ほお)⁼ゆん⓪: (他 ⁼らん、⁼てぃ) 蹴散らす。

慶留間(ぎるま)⓪: (名) 慶留間島。慶良間列島(きらま)の島の名。また、慶留

  間。

家来赤頭(ぎれえあくがん)⓪: (名)[古][家来赤頭] 王府の下級の役職の名。

帰来適(ぎれえかね)え⓪: (名) 帰来適(ぎらいかな)い、の口語。祈(にれ)え

  適(かな)え、ともいう。

綺麗(ぎれえ)⁼ゆん⓪: (他 ⁼らん、⁼てぃ) [古] 家屋・墓などを、普請する。

造営する。混効験集には、「げらいて」とある。 *混効験集:乾巻・言語および、坤

巻・言語に、けらいて、とある。混効験集原文に濁点はないようである。 *おもろ

さうし・101に、けらへて、とある。 

嫌(きろ)お捏(くの)お⓪: (副) 散々小言を言うさま。がみがみ。 @嫌(きろ)

  お捏(くの)お為(しゅ)ん。/がみがみ言う。

健堅(きんきん)⓪: (名) 健堅。 ※「けんけん」、国頭郡本部町の地名。

硯水(きんじい)@: (名) [硯水]酒・さかななどの贈りもの。親類の家の普請な

  どの際に、大工などに贈る酒・さかななどをいう。